大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和43年(ワ)931号 判決

原告

滝村一郎

外五名

代理人

山口貞夫

復代理人

中島晃

被告

西田藤夫

岩村東律こと

許東律

代理人

有井茂次

主文

一、被告両名は各自原告滝村一郎に対し金一、五九一、七八五円およびこれに対する昭和四三年七月二七日から完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、被告両名は各自原告滝村加代美および原告滝村利博に対し、それぞれ金一、〇五九、五二三円およびこれに対する昭和四三年七月二七日から各完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

三、被告両名は名自原告滝村町江に対し金一、〇五九、五二四円およびこれに対する昭和四三年七月二七日から完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

四、被告両名は各自原告土田勇吉および原告土田ユキに対し、それぞれ金二五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年七月二七日から完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

五、原告らのその余の請求を棄却する。

六、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

七、この判決は原告ら勝訴部分に限り仮執行ができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告ら

(1)  被告らは各自原告滝村一郎に対し金四、七八四、六五一円、原告滝村加代美に対し金三、八一七、七九二円、原告滝村利博に対し金二、五六六、六六六円、原告滝村町江に対し金二、五六六、六六六円、原告土田勇吉に対し金五〇〇、〇〇〇円、原告土田ユキに対し金五〇〇、〇〇〇円および原告滝村一郎に対する右金員から金六〇万円を除いたその余の残金に対し、その余の原告に対する右各金員に対し、いずれも昭和四三年七月二七日から完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。

旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

(1)  原告らの請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者の主張

一、原告ら

(請求の原因)

(1) 被告西田藤夫(当時二二歳)は、昭和四二年八月一三日午後八時一五分ごろ、京四ま二三七八号の小型貨物自動車(以下本件自動車という)を運転して、時速約五〇キロメートルで竹田街道を南進し、京都市伏見区竹田七瀬川町所在市電七瀬川町停留所付近にさしかかつた際、同停留所安全地帯で佇立中の訴外滝村敏子(大正一一年二月三日生当時四五歳)に本件自動車を衝突させて同人をその場に転倒させた(以下本件事故という)。

(2) 右訴外人は、右事故によつて頭部外傷第三型、脳挫傷の傷害を受け、そのため同年同月二一日死亡するに至つた。

(3) 本件事故の際、被告西田藤夫は前方注視義務を怠り、しかも、危険を感じた後に措るべき急制動などの避譲措置にも欠けるところがあつたもので、本件事故は被告西田藤夫の一方的過失によつて発生したものである。

(4) 被告許東律は、本件事故の頃、本件自動車を所有し、被告西田藤夫を自動車運転手として雇傭して、本件自動車を運転させ、もつて、被告許東律の日常の業務のために運行支配し、それによつて利益を収めていたものである。

(5) 原告滝村一郎は、訴外滝村敏子の夫、原告滝村加代美、原告滝村利博、原告滝村町江は、いずれも、原告滝村一郎と右訴外人との間の実子、原告土田勇吉、原告土田ユキは、いずれも、右訴外人の実父母である。

(6) 原告らは、本件事故によつて、次の損害を蒙つた。

(イ) 訴外滝村敏子は、本件事故当時四五歳の主婦で、日常の家事労働に従事するかたわら、飲食店三丸屋に勤務して、月額金一〇、〇〇〇円の収入を得ていた。

右訴外人の家事労働の価値は、月額金三五、〇〇〇円を下ることはなく、右訴外人自身の生活費は月額金一〇、〇〇〇円とみられるから、右訴外人は死亡したことによつて、一カ月について金四〇、〇〇〇円の損失を蒙つたものである。

右訴外人の平均余命三一年(「昭和四〇年簡易生命表」による)のうち、少なくとも右死亡後二〇年間は本件事故当時と同価値の労働能力を有するものとみられるので、右訴外人は、二〇年間一カ月について金四〇、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したもので、右逸失利益の本件事故当時の現価を年五分の中間利息を控除して算出すると金四、八〇〇、〇〇〇円となる。

右逸失利益の損害金を、原告滝村一郎はその九分の三に該る金一、六〇〇、〇〇〇円、原告滝村加代美、原告滝村利博、原告滝村町江はいずれもその九分の二に該る金一、〇六六、六六六円宛相続した。

(ロ) 原告滝村加代美は、訴外滝村敏子の存命中、日本紙工株式会社に勤務して一年間に金三七五、三三八円の給与を受けていたが、本件事故によつて右訴外人が死亡したため家事に従事する者がいなくなつたので、やむなく右会社を辞めて家事に従事している。

かかる状態は、本件事故当時中学二年生であつた原告滝村町江が高校を卒業するまで、即ち本件事故後最低四年間は続くこととなるから、原告滝村加代美は、四年間右給与相当額の得べかりし利益を喪失したものである。右逸失利益の本件事故当時の現価を年五分の中間利息を控除して算出すると金一、二五一、一二七円となる。

(ハ) 原告滝村一郎が、訴外滝村敏子の慰霊のために出費した金員のうち被告らからの未払分金八四、六五一円

(内訳)

A 初七日菓子、果物、付出し代

金四、〇一六円

B 逮夜から初七日までに使用した清涼飲料代 金九二〇円

C 引物鉢代 金七、二五〇円

D 三七日ビール代 金二、八八〇円

E 同  打出し代 金一、二六〇円

F 同  茶菓子代 金二七〇円

G 同  氷(ビールを冷すための)代 金二五〇円

H 同  生花代 金六五〇円

I 位牌代 金二、五〇〇円

J 忌明粗供養代 金五、八〇五円

K 忌明会席盛合代

金四三、〇〇〇円

L 忌明すし盛合代 金八五〇円

M 百ケ日粗供養茶代

金一五、〇〇〇円

(ニ) 原告滝村一郎は、弁護士山口貞夫に、本件訴訟手続の処理一切を委任し、同弁護士に対しその着手金として昭和四三年七月一〇日金一〇〇、〇〇〇円を支払いずみであり、本件訴訟において勝訴の判決を得たときは報酬として金五〇〇、〇〇〇円の支払いを約した。

(ホ) 被害者訴外滝村敏子本人の慰藉料金三、〇〇〇、〇〇〇円

右慰藉料について、原告滝村一郎はその九分の三に該る金一、〇〇〇、〇〇〇円、原告滝村加代美、原告滝村利博・原告滝村町江はいずれもその九分の二に該る金六六六、六六六円宛相続した。

(ヘ) 原告ら固有の慰藉料

原告滝村一郎

金二、五〇〇、〇〇〇円

原告滝村加代美・原告滝村利博・原告滝村町江

各金一、五〇〇、〇〇〇円

原告土田勇吉・原告土田ユキ

各金五〇〇、〇〇〇円

(7) 原告滝村一郎、原告滝村加代美、原告滝村利博、原告滝村町江は、自動車損害賠償保障法による死亡補償金三、〇〇〇、〇〇〇円の給付を受けたが、同金員は右原告らが、各その法定相続分に従つて取得したことになるので、前項の損害額からこれを差引くと損害残額は、原告滝村一郎金四、七八四、六五一円、原告滝村加代美金三、八一七、七九三円、原告滝村利博・原告滝村町江各金二、五六六、六六六円となる。

(8) よつて被告らに対して、各自原告滝村一郎、原告滝村加代美・原告滝村利博・原告滝村町江はそれぞれ前項の金員、原告土田勇吉および原告土田ユキは各金五〇〇、〇〇〇円宛およびこれら金員のうち原告滝村一郎に対する弁護士費用金六〇〇、〇〇〇円を除いたその余の残金、並びにその余の原告らに対する金員について、昭和四三年七月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、被告ら

(答弁)

(1) 原告ら主張の請求原因(1)ないし(5)の各事実は認める。

(2) 同(6)の各事実は否認する。

(3) 同(7)の事実中原告ら主張の原告らが自賠法による死亡補償金三、〇〇〇、〇〇〇円を受領した事実は認めるがその余の点は否認する。

(4) 被告許東律において、訴外滝村敏子の治療費、入院費、葬式代等を負担したのであるから、原告らを相当慰藉したことになる。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告ら主張の請求原因(1)ないし(6)の各事実は当事者間に争いがない。

右争いのない各事実によれば、被告西田藤夫は不法行為者として、被告許東律は本件自動車の運行供用者として、各自原告らに対し、本件事故によつて訴外滝村敏子が蒙つた損害および原告らが蒙つた損害を賠償しなければならない。(請求の原因(4)の事実は、被告許東律の認めるところで、特別の事情の認められない本件においては、右被告は本件事故当時、本件自動車を自己のために運行の用に供していたものとして訴外滝村敏子が本件事故による受傷ないし死亡によつて同訴外人および原告らが蒙つた損害を賠償しなければならないものと解する)。

二、そこで、右損害について検討する。

(1)  〈証拠〉によれば、訴外滝村敏子は昭和四一年九月から本件事故により受傷するまで、飲食店三丸屋に毎日一〇時から一五時までと、一八時から二〇時までの七時間勤務し客の応接や洗場の仕事を手伝つて月額金一五、〇〇〇円の収入を得ていたこと、および本件事故がなかつたならば右訴外人は、同訴外人が六〇歳を超えても引続き、右三丸屋に勤め、その間右同額の収入を得たであろうことが認められ、右認定に反する証拠はない。

〈証拠〉によれば、訴外滝村敏子は健康な主婦として、右三丸屋に勤務する以外の時間は原告ら家族の世話を引受け家事に従事していたこと、および、本件事故がなかつたならば、同様引続いて家事に従事していたであろうことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右訴外人の、右家事労働の価値は、その従事時間を考慮すれば、前記三丸屋より得る収入と同額であると評価することができるものと解する。(原告らは、右訴外人の家事労働の価値を金三五、〇〇〇円と主張するが、これを認めるに足る証拠はない。)右訴外人は本件事故によつて右家事労働力が喪失させられたのであるから、得べかりし利益を喪失させられた場合に準じ、右労働力の価値相当の損害を蒙つたものということができる。

そうすると、右訴外人の家事労働の価値月額金一五、〇〇〇円に、前記右訴外人の得べかりし利益月額金一五、〇〇〇円を加えれば計金三〇、〇〇〇円にして、その年額は金三六〇、〇〇〇円である。

右訴外人の生活費は、右各認定事実よりして本件事故当時以降月額金一〇、〇〇〇円年額金一二〇、〇〇〇円を超えることはないものと認められ、右認定に反する証拠はない。右訴外人が死亡時四五歳であつたことは、当事者間に争いがなく、前記各認定事実および同訴外人の平均余命を考慮すれば、同訴外人は、その死亡後なお二〇年間は主婦として家事に従事し、また飲食店手伝として(同飲食店を退職しても、他に勤め或は内職をして)労働に従事し得たであろうと推測できる。

以上の事実により、右訴外人が、昭和四二年九月から二〇年間毎年右金三六〇、〇〇〇円から生活費金一二〇、〇〇〇円を差引いた残金二四〇、〇〇〇円の収入を得るものとして、ホフマン式計算法によつて年五分の中間利息を控除し、昭和四二年八月当時における現価を算出すると金三、二六七、八五六円となり、右訴外人は本件事故によつて、右金額相当の損害を蒙り、被告らに対し同額の損害賠償請求権を有していたものということができる。

請求の原因(5)の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、右訴外人の損害賠償請求権を、原告滝村一郎はその三分の一即ち金一、〇八九、二八五円、原告滝村加代美・原告滝村利博・原告滝村町江は各その九分の二即ち金七二六、一九〇円宛相続したものということができる。

(2) 原告滝村加代美は、訴外滝村敏子が死亡したことによつて家事に従事するものが居なくなつたので四年間一年について金三七五、三三八円の得べかりし利益を喪失した旨主張するが、同原告は、右訴外人が本件事故の後尚二〇年間生存し、家事に従事してくれるものとして、右訴外人の家事労働力喪失による損害を被告らに請求し、右請求は前記のとおり認容されるので、右訴外人が家事に従事してくれたら、右原告は、家事に従事する必要がないのであるから、右原告の右逸失利益の請求は、右訴外人の家事労働力喪失による損害の請求と重複し、許されないところである。

(3)  〈証拠〉によれば、原告滝村一郎が訴外滝村敏子の慰霊のため法事を営み請求の原因(6)(ハ)のとおり金八四、六五一円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はないが、右のうち本件事故と相当因果関係にあるものはIの位牌代金二、五〇〇円で、その他のものは相当因果関係にある損害ということはできない。

(4) 慰藉料請求権は、特別の事情のない限り一身専属性のもので相続性をもたないものと解すべきであり、右特別事情の存在の認められない本件においては、原告らの本訴請求中、訴外滝村敏子の慰藉料を請求する部分は失当である。

(5)  本件に顕われた諸般の事情を勘案するときは、原告滝村一郎固有の慰藉料は金一、五〇〇、〇〇〇円、原告滝村加代美、原告滝村利博、原告滝村町江のそれは各金一、〇〇〇、〇〇〇円、原告土田勇吉、原告土田ユキのそれは各金二五〇、〇〇〇円が相当にして、右金額を超える原告らの請求は失当である。

(6)  以上によれば、原告らが賠償を請求できる損害額は、原告滝村一郎が金二、五九一、七八五円、原告滝村加代美、原告滝村利博、原告滝村町江が各金一、七二六、一九〇円宛、原告土田勇吉、原告土田ユキが各金二五〇、〇〇〇円宛であるところ、原告滝村加代美、原告滝村利博、原告滝村町江において自動車損害賠償保障法により、死亡補償金として金三、〇〇〇、〇〇〇円の給付を受けたことは当事者間に争いがないので、その相続分(原告滝村一郎は金一、〇〇〇、〇〇〇円、原告滝村加代美および原告滝村利博は各金六六六、六六七円宛、原告滝村町江は金六六六、六六六円)に従つてこれを右原告らの請求できる損害額から差引くと、原告滝村一郎は金一、五九一、七八五円、原告滝村加代美および原告滝村利博は各金一、〇五九、五二三円、原告滝村町江は金一、〇五九、五二四円となる。

(7)  弁論の全趣旨によれば、原告滝村一郎は昭和四三年七月一〇日本件訴訟の提起とその追行とを弁護士山口貞夫に委任したことが認められるが、同原告が右弁護士に支払つた着手金或は、同弁護士との間に締結した報酬契約については、これを認めるに足る証拠はない。弁護士費用を損害として請求できるためには、同原告において、その弁護士費用について損害が生じたことを要するものと解すべきであるから、原告滝村一郎の本訴請求中弁護士費用の支払いを求める部分は失当である。

三、従つて、原告らの本訴請求中、被告ら各自に対し、原告滝村一郎が金一、五九一、七八五円、原告滝村加代美および原告滝村利博が各金一、〇五九、五二三円、原告滝村町江が金一、〇五九、五二四円、原告土田勇吉および原告土田ユキが各金二五〇、〇〇〇円並びにこれら金額に対する損害発生の後である昭和四三年七月二七日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲内においては相当であるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。(常安政夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例